初期検印紙調査メモ. 文學社(明治20~29年)

文學社が明治20年代に使用した検印紙を幾つか調べた。(これ以前の使用例については こちら を参照。)

末廣重恭編纂「近世歐洲事情」。 洋装、1冊、ボール表紙。
表紙には周囲にサクラとトンボが、中央には西洋の議会場の風景が描かれ、
上部に "近世歐洲事情 | 朝野新聞主筆 | 末廣重恭編纂"、下部に "東京 | 文學社" とある。
左下には丸の中に B,G,K を組み合わせたロゴに続けて "& co." とある。ロゴは Bun Ga Ku のイニシャルだろうか。
調査本には標題紙が無いが、国会図書館デジタルコレクション公開本には標題紙があり、
"朝野新聞主筆 鐵腸末廣重恭 仝記者黙堂菊地廣治 同纂 | 近世歐洲事情 全貮冊 | 發兌 東京 文學社" とある。
奥付は以下の通り。
(近世歐洲事情)
明治二十年二月十六日板權免許
仝 年四月 出板
編者 愛媛縣土 [ママ] 族 末廣重恭 東京府麹町區内幸町二丁目壹番地
編者 東京府士族 菊地廣治 東京府芝區西久保城山町拾壹番地
出板 滋賀縣士族 小林義則 東京日本橋區本町四丁目十六番地
發兌 文學社 東京本町四丁目十六番地
検印紙 は奥付左上部に貼られている。28 × 35 mm.、版面 25 × 30 mm.、暗青緑色単色、目打ち無し、平版に見える。
周囲に 机、和本、そろばん、筆と筆立て、棍棒、亜鈴、巻かれた紙、地球儀、三角定規等が描かれ、中央枠内に "東亰文學社証" とある。
割印は楕円印、不鮮明だが "小林家圖書印" だろう。

このデザインの検印紙を複数の出版物で確認していて、ある事に気が付いた。岡村増太郎編纂「新撰地誌」第三巻の例を挙げる。
標題紙には "明治二十年六月十七日文部省檢定濟小學校教科用書" とあり、
奥付の日付は "明治十九年五月三日版權免許 | 同 年同月出版"、
枠外上部に "巻一二明治二十年一月廿一日訂正再板御届" とある。
検印紙 は奥付上部に貼られていて、割印は "東亰文學社印" の丸印である。
同じ検印紙だが、よく見ると右下の棍棒に "二十一年"、下中央の亜鈴には "G" の文字が付け加えられている。
"二十一年" は明治21年の事だとすぐわかるが、アルファベットの "G" は何だろう。
同じ検印紙が貼られている他の出版物を調べてみた。確認できたアルファベットと年表示を並べてみる。
[ ] は国会図書館デジタルコレクションで確認したもの。
"G"、"二十一年" -- 上掲書。
"J"、"二十二年" -- 三宅雄二郎編纂「論理学」(明治23年9月15日出版)
"L"、"二十三年" -- 高津鍬三郎編纂「中等教科 国文学 巻一」(明治24年4月1日出版)
"M"、"二十四年" -- 高津鍬三郎編纂「中等教科 国文学 巻二」(明治24年4月17日出版)
"N"、"二十四年" -- 中村五六編纂「中等地理 巻一」(明治24年4月17日出版)
"O"、"二十四年" -- [永江正直編纂「學藝新書 手工篇」(明治25年6月7日出版)]
"Q"、"二十五年" -- 風當朔朗編「日本女鑑 巻二」(明治25年2月18日出版)
"r"、"二十五年" -- 中村五六編纂「中等地理 萬國史 二」(明治25年7月11日 訂正再版)[国会図書館デジタルコレクション公開本は "Q"]
"T"、"二十五年" -- 齋田功太郎編纂「新式植物學」(明治25年9月28日出版)
"V"、"二十六年" -- [風當朔朗編「日本女鑑 巻二」(訂正. 明治26年8月20日出版)]
"W"、"二十六年" -- [教育評論社編纂「明治作文書 高等小學校用」(明治26年6月8日発行)]
"い"、"二十七年" -- [原慶次郎編纂「小學校管理術 下」(明治27年11月30日発行)]
"り"、 "二十九年" -- 中村五六編纂「中等地理 萬國史 二」(明治29年5月12日 十一版 )
"わ"、"二十九年" -- 文學社編輯所刪定「中等中地理 萬國史」(明治29年10月13発行)
"か"、"二十九年" -- 原勇六編纂「中等教科 西洋史 巻一」(明治29年9月1日発行)
"よ"、"二十九年" -- 田中稻城, 赤堀又二郎編纂「中等教科 西洋史」(明治29年12月5日 三版)

アルファベットの大文字が順に印刷されているのがわかるが、なぜか "r" だけは小文字になっている。
なお、調査本の "r" 検印紙 の下部には "大藏省印刷局製" の銘版があり、調査中かなりの頻度で確認できた。
現在の切手シート同様、シートに一ヶ所のみ印字されていたとすると、1シートの印紙数はそれほど多くないのではないかとも思う。
27年からはいろは順にひらがなが印刷されていて、確認できたのは 29年の "よ" まで。
なお、検印に印字された年と出版年は必ずしも一致しない。
また、検印紙の図柄の細部は明治20年代前半のものと後半の物とでは微妙な差異があり、同一原版ではなさそうだ。

これに似た工夫が明治7年から発行された郵便切手(桜切手)に見られる。
切手版面の下部に小さくカタカナを印字したもので、在庫管理目的だったとされるが、市田左右一著「桜切手」(新版, 1982) には、
"本来仮名の添加は地方別売上残高計算の便にあったが、実際にはこの目的には一切利用されなかった。" とある。
おそらく文學社の検印紙に付与された文字も発行枚数管理などの目的があったのだろう。
明治20年出版の「近世歐洲事情」の検印紙にはアルファベットも年表示もないので、
文字の挿入は検印紙のデザイン決定の後に工夫されたもののはずだが、
それにしては記号と年表示を書き込む空白場所が印紙下部にうまく空いていたものだ、と思う。
機会があれば "G" 以前や "よ" 以後、未確認の文字の検印紙も調査したい。

[2025.12.20 記]
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