Lanzia sp. no.6

Lanzia sp. no.6

Lanzia sp. no.6
ランツィア属菌。10月9日撮影。

[特徴]
落下した前年のクリの総苞の主に内面に生じる。子嚢盤は椀型からほぼ平らに開き、径 4 mm. 程度までになる。 子実層面は平滑、ベージュ色から灰茶褐色、縁は前縁で時にやや内屈する。外面もほぼ同色で得に向かって濃色、ほぼ平滑、ルーペ下では微毛状に見え、時に細かいしわがある。 柄は比較的短く、茶褐色から基部付近ではほとんど黒褐色。-- 子嚢は円筒形、先端は肥厚し、頂孔はルゴール試薬で青変する。基部にはかぎ形構造があるように見える。8胞子をほぼ一列に生じ、後にはやや2列に固まる。91-94.5 × 5.7-6 μm. -- 側糸は糸状、隔壁があり、ほぼ無色の内容物がある。径 1.5-2 μm.、先端付近はやや膨らんで 2.5 μm. 程度になる。-- 子嚢胞子は楕円形ないしやや卵形、無色、薄壁、平滑、時に両極に小さな油球状の内容物がある。7.2-8.6 × 3.7-4.3 μm. -- 子実下層は淡褐色、托組織髄層はほぼ無色、径 2.5-8 μm. の菌糸からなる絡み合い菌組織、 外皮層は厚さ 50 μm. 程度まで、やや丸みを帯びた矩形状の細胞からなり、わずかに褐色を帯び、30 × 12 μm. 程度まで、縁に向かってやや細く濃色になる。 髄層との境界部には、ほぼ平行に走る菌糸状の層がある。 最外層には、褐色で粗面の菌糸が走る。径 3 μm. 程度、隔壁があり、先端は棍棒状ないし紡錘状に膨らんで径 6 μm. 程度、わずかに立ち上がって毛状になり、淡褐色の油球を含むものが多い。 ゼラチン化した組織は見られない。

[コメント]
クリ (Castanea crenata) の古い総苞に生じていたもの。裂開した断面か内面に多いが、外面にも生じ、総苞の表面は子座化して黒ずむ。 Zhao (2014) が Lanzia sp. 3 としている菌の記述にほぼ一致するので、当該種と考えて間違いないと思う。まだ新種記載はされていないようなので、Lanzia 属菌としておく。 Zhao (2014) は、クリの総苞に生じる2種のキンカクキン類について、下記のように記している。
Notes - There are two species known to occur on the involucres and spines of C. crenata: Poculum elatinum (Alb. & Schwein.) M.P. Sharma and Poculum americanum (E.J. Durand) M.P. Sharma & K.S. Thind. However, both P. elatinum and P. americanum have the gelatinous matrix in ectal excipulum (White, 1941), which completely differs from the present species. [以下略]
前者の Poculum elatinum は、現在は Rutstroemia 属 [Rutstroemia elatina (Alb. & Schwein.) Rehm] とされることが多いが、 主にモミ (Abies) 属に生じる菌で、Poculum elatinum の新組み合わせを提案した Sharma (1991) も、 寄主として Abies alba、A. pectinata、Tsuga canadensis を挙げているので、何かの錯誤だろう。 後者の Poculum americanum は、現在は Ciboria 属 [Ciboria americana Durand] とされることが多く、 クリノイガワンタケ と共にクリの総苞に生じるキンカクキン類として良く知られている。 北米から記載された菌で、ヨーロッパからも記録があり、原色日本新菌類図鑑 II (保育社, 1989) でもこの2種が挙げられているが、C. americana の詳しい記述を伴った日本産の記録を見つけられない。 Zhuang and Wang (1997) にはコーネル大学の日本産標本 "CUP-JA 1881" が挙げられているが、MyCoPortal では検索できなかった。 なお、同大学の標本 "CUP-K-2680"(リンク先は MyCoPortal)のラベルには "Ciboria americana Durand forma" とタイプされた後に手書きで "cfr. nipponica !!" と(cfr. の部分の判読は不明確)記されている。 同定者欄には "RPK" のサインがあるので R.P. Korf によって記されたものだろう。採集地はスイスのトゥールガウ州トーベル (Tobel) で、なぜ "nipponica" なのかわからない。 Palmer et al. (1994) は C. americana として記録されたものには複数種が混在している可能性を示唆している。国内の記録も検討の余地があるかもしれない。 よくわからない盤菌類 no.47 は良く似ているが、トゲから生じる、子嚢胞子がやや細長い、外面に毛状菌糸がみられないなどの微妙な違いがあるので区別しておく。

[参考文献]
Korf (1959): Japanese Discomycete notes IX-XVI. (Bulletin of the National Science Museum ; 4(4), p. 389-400).
Palmer et al. (1994): Sclerotiniaceae (Discomycetes) collected in the former Federal Republic of Yugoslavia. (Österreichische Zeitschrift für Pilzkunde ; 3, p. 41-70).
Sharma (1991): The genus Poculum Vel. (Himalayan botanical researches ; p. 223-264).
Zhao (2014): Taxonomic study of Lambertella (Rutstroemiaceae, Helotiales) and allied substratal stroma forming fungi from Japan. (Ph.D. thesis, University of Tsukuba).
Zhuang and Wang (1997): Notes on sclerotiniaceous fungi on Castanea and Castanopsis in Asia. (Mycotaxon ; 64, p. 449-454)

[初掲載日: 2025.01.15] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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